世界を救うというミッションをもって、今、目の前にフォーカスする

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どたんば哲学

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[006]世界を救う丁稚奉公

  

 

田舎に暮らし始めて、めんくらったことが2つある。

1つは、それなんだな。毎日、誰かに、「嫁さんいらんか?」と言われる。28歳の男が、独身でいるということは、あまり好ましくないらしい。都市の出身である私には、ちょっと不思議な感覚だ。当時でも、30歳過ぎて独身は珍しくなかったから。

それと、田舎の人たちは、とにかくお世話をしたがるらしい。これは、人情ってもんなんだ。都会ではやや薄れてきた人情が、田舎では、まだまだ強く残っている。人と人との濃い〜つながり。いいもんです。ただ、ちょっと、わずらわしさも。

毎日毎日、嫁さんいらんかと言われたって、「ちょうだい」って言うのもなんだし、「またあとで」とか「もうちょっとしてから」とか「とりあえずキープ」とか「いっぺん会ってみる」とか言おうものなら、私の意思と関係なしに、いっきに話が進んでまとまってしまいそうな雰囲気を感じるので、「べーつに〜」といった気乗りしない返事をしていたら、「あいつは一生結婚しないらしい」という評判が定着してしまったようだ。

そうなると、あまり「嫁さんいらんか」と言われなくなってきた。

めんくらったことの2つ目。いつも自分が誰かに見られていること。都会では、隣に誰が住んでいるかもよくわからないことが珍しくない。誰がどこで何してようと、誰もかまわない。なのに、田舎では、一挙手一投足を誰かが見ている。

私の家は、いちばん奥なので、どこへ行こうとも、必ず1本の道を通っていく。道すがらの家々で、お年寄りが縁台にすわっている。もちろん、監視しているわけではないが、自然と、私の行動がすべてわかってしまう。何時に出ていった、とか。

私はよそ者だが、地元の家同志では、「他人」という感覚が薄いようだ。よその家の内部事情がかなり共有されている。「自分は自分」という世界ではない。

これは、セキュリティが高いとも言えるが、わずらわしさも感じる。みんなと生活の多くを共有することと、誰にも干渉されず口出しもされないこと。どっちがいいだろう?

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#私が若い頃から「世界を救おう」と意識していたわけではありません。人は、誰かとかかわらずに生きていくのはかなり難しい(無理?)。他人に認められたい、という欲求は自然と誰にでもありますが、認められるには、誰か他人の役に立つか、他人に喜ばれることをすることが必要です。

#ここで、問題なのは、自分が喜ばせたい人たちを限定するかどうか、です。「私は、世界なんていらない。家族だけ守っていれば充分なんだ」とか、「私の会社のためにがんばれば充分なんだ」とか、「地域のためにがんばれば充分なんだ」とか、そういう限定をつけている人は多いです。

#どうも、偉大な成功者たちは、そういう限定を、「自分の可能性を小さくしてしまう」として嫌うようです。その心は、私にも理解できます(大富豪ではありませんが・・・)。「他人を幸せにしたい」と思うとき、「他人」に限定条件をつけなければ、それは世界です。いまは、家族しか見ていないようでも、「家族だけを」でないなら、世界の一部です。

#「世界を救う」というのは、そういう意味です。

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さて、童仙房での生活は、1991年3月に始まった。あいかわらず、昼は土方、夜はときどき塾の生活である。山奥の一人暮らし。コンビニは車で30分ほどかかる。いちばん近い店でも、車で20分。スーパーや商店街となると、車で40分ほどかかる。買い物はたまにまとめてするしかない。

一人で気楽だなどという人もいるが、とてもとても気楽とはほど遠い。朝起きると、自分で朝食をつくり、弁当をつくり(現場近くに外食できるところがないことも多い)、現場に行って、一日汗と泥にまみれ、土方をする。夕方帰ると、すぐに着替えてシャワーを浴びて、となりのお家で塾。そういう日は、夕食はよばれる。家に帰ると21時半ぐらい。室内に干してある洗濯物をたたみ、その日の洗濯をする。朝の洗い物も夜。

こんなルーチンワークが毎日続いた。

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#日本人の成功哲学もおもしろい。江上治さんの『一生かかっても知り得ない 年収1億円思考』に書かれている。「『稼ぐ』マインドは、丁稚奉公から生まれ、育つ」と。

#「丁稚奉公などとんでもない、待遇をよくして、ほめて育てろ、叱ってはいけない、という。こんな『甘えの構造』の中で、自立した、自分の力で稼げる人間など育つわけがないのである」

#「会社に入って、新入社員のときに、ふつうの若者にできることはまず何もない。まったくの素人に過ぎない。社会的赤ん坊である。だから言われたこと、指示されたことを、愚直にやり続けるしかないのである」

#「稼ぐ、というのは、あえて『青い鳥』を探そうとしない強いマインドからしか生まれないことを、まず知るべきである」

#アメリカの偉大な成功者たちも、似たことを言っている。しかし、現代では、このようなマインドを持ち、このように生きている若者は少ない。

#私は、20代で、2度の丁稚奉公を経験した。出版社勤務と、土方である。誤解しないで頂きたいが、どちらも、自分で選んだ道である。どちらも、社長さんや先輩方には、言葉に尽くせないほどのお世話をいただき、感謝に限りない。しかし、まるで自分の手に負えない仕事を、脇目もふらず愚直にさせていただいた。

#「青い鳥」をさがしてはダメだ。私にもよくわかる。それこそが、「今、目の前へのフォーカス」に他ならない。青い鳥など、どこにもいない。青い鳥は、自分の可能性をそぎ、自分を成功から遠ざけてしまう、悪魔のささやきだ。

#愚直に、土方を続け、ルーチンワークの日常を黙々と生きた。どたんば哲学の真骨頂である。
「世界を救うというミッションをもって、今、目の前にフォーカスする」

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童仙房に住んで、2年あまり。土方を始めてから、ほぼ3年。1994年夏、体調を崩して長期休養した。左胸が苦しくてしかたなかった。病院で検査を受けても異常ない。逆に「ケチをつけられないほどの健康体だ」とまで言われた。いくつもの病院で検査を受けたが、結果は同じ。なのに、症状は良くならない。

2ヶ月ほど休養するうち、そろそろ次のステップに進むか、と考えた。

「今、目の前へフォーカス」というのは、今やっていることを何が何でも変えないという意味ではない。

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#『ザ・シークレット』で一躍有名となった「引き寄せの法則」。著者のロンダ・バーンさんは、「100年間封印されてきた幻の書から引き寄せの法則を発見した」と言っているが、その幻の書こそ、ウォレス・D・ワトルズの『金持ちになるための科学』である。成功哲学の大御所たちも参考にしてきた名著だ。

#ワトルズさんの言葉に、「転職」について触れた部分がある。

#「現在、自らに与えられている仕事を全て片づけられたときに初めて、あなたは前進できるのです。現在、与えられている仕事を十分にできない人が、次の仕事につけることはありません」

#「今の仕事が自分に合っていないと感じていても、転職しようと、焦って事を起こしてはいけません。仕事や環境を変えるときは、一般的に言って、十分に成長したかどうか、やるべきことを全てやり切ったかどうかで、判断するのが最良のやり方です」

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石の上にも三年。編集3年、土方3年。

これを機に、土方をそうとう減らし、別に道へ進もう。

左胸の苦しさの原因が、ふとしたことでわかった。半年前に、丸太が背中の左側を直撃したことがある。そのとき傷めた箇所が、時を経て、凝り固まってきた。ちょうど、心臓の裏側だ。だから、心臓が苦しいように感じるのだった。心臓そのものは、関係ない。背中に灸をすえて、徐々に症状がやわらいでいった。

次の道。

それは、社会で話題になりつつあった、「登校拒否」(今で言う「不登校」)だ。

独身の私に子どもはいない。当事者としての問題意識ではない。そのころ、登校拒否は「一種の逸脱」と考えられていた。しかし、登校拒否は、手の打ちようもなく、増え続けている。社会が変容していく兆しの一端が、ここにあるのではないか。そう考えた。

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